【僕の感想】第7回:書籍「コンビニ人間」

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コンビニ人間

この本の概要について

本の概要に関してはAmazonの商品説明ページの通りです。引用します。

「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。
ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。
累計92万部突破&20カ国語に翻訳決定。
世界各国でベストセラーの話題の書。

コンビニ人間 (文春文庫) Kindle版|Amazon.co.jp

その他、著者の情報等も上記のAmazonのページに詳しいので、そちらを参照願います。
以下、この本に関する感想です。なお、本作はネタバレあるなしが面白さに影響しないタイプの作品だと思われますので、ネタバレ有無は気にせず感想を書いていきます。ご了承願います。

感想

僕、この本を読む前に、この本の内容について、失礼ながら「コンビニの特徴を洗い出して、現代の社会を生きる我々との類似性を比較し、それをもって現代社会を批判する…みたいな感じの本なんだろうな、芥川受賞作だし、そんな感じの批判性を持った本の方が賞は取りやすいだろうし」みたいな想像を勝手にしていたのですが、これ、完全に見当違いでした。

この本は本当に単純に「コンビニ人間の考え方や生態を紹介している本」でした。
ここでいう「コンビニ人間」とは「コンビニ店員として最適化された考え方・特性を持ち、あたかもコンビニ自身がなりたい姿・形を実現するためだけに生まれたかの様な人間」の事を指します。

で、本作において「コンビニ人間」が誰か…と言うと、あろうことか「主人公」なんですね。
これはちょっとスゴい設定だな、と思いました。だって、普通、作品を売ろうと思ったら「主人公」って「誰からもある程度、共感の得られる立ち位置の人物」にするハズですもん。それに成功さえすればある程度の作品のクオリティは保証される…というくらいに大事な要素のハズです、「読者が共感できる主人公像」って。この作品はその試みを完全に放棄しています。

いや、だって、小説の読者の大部分を占めるであろう”普通”の人って「コンビニ人間」では無いですからね。僕も「コンビニ人間」ではありません。(僕が”普通”の人か否かはさておき)むしろ「コンビニ店員に求められるスキル」的な観点から僕を評価すると、かなり低評価になってしまうであろうくらいの人物です。おそらく、この記事を読んで頂いているアナタも「コンビニ人間」ではない可能性の方が高いと思います。でも、この作品の主人公は「コンビニ人間」という”異常者”なんです。

なので、この作品において「主人公に共感できる読者」といのは、かなり少なくなっていると思います。ただし、この作品は語り口が軽快で非常に読みやすいので「主人公の考えが全くわからんわ」という状態のままでも、特にストレスなく読み進められます。

で、この作品の巧みなところは「主人公に共感できないまま読み進めていくうちに、徐々に主人公の考えもわかっていく」というところなんですね。ちなみに、この効果を読者に与えるための物語における非常な重要なパートは中盤の「白羽さんとのファミレスでの会話」になると思います。物語の序盤の最後の方に登場してくる、この白羽さん、主人公に負けず劣らずの”異常者”なのですが、このファミレスのシーンは「”異常者”が”異常者”と会話しており、かつ、両者共にお互いの事を【こいつ”異常者”だわ】と思っている」という「コント的な面白さ」を秘めた展開になっています。これにより読者は主人公に対して愛着と共感を得る事が出来ます。具体的に言うと「白羽さんは”異常者”だ」という点で読者と主人公の考えが一致するんですね。これが読者の物語に対する没入具合において極めて有効な策になっています。

で、後半、すっかり主人公の考え方を理解した読者は主人公の身に降りかかる「社会からの同調圧力を起因とする不愉快な出来事」に対して、主人公と同様にフラストレーションを感じていく事になります。そして、読者は物語のラストにおいて主人公が自分の生きる道を見つけた事による発生したカタルシスをも、一緒に味わう事が出来るのです。

ここで、読者は「どうあがいても”普通”に生きられない人間は一定数、存在する」という事実を主人公と共に追体験します。この作品は、この物語構造により読者の世界観を広げる事が出来る可能性を秘めた作品となっています。この辺りが芥川賞に選ばれる理由にもなっているのではないでしょうか。

いや、でも、ホント、これ、異常な作品だと思います。普通だったら「白羽さん」を主人公にしてしまいそうなモノです。というのも白羽さんも主人公に負けず劣らずの”異常者”なのですが、白羽さんは主人公よりも”マトモ”なのです。主人公は「社会からの同調圧力に対応できない事に対して苦しむ事すらないレベルの”異常者”」なのですが、白羽さんは「社会からの同調圧力に対応できない事に対して苦悩する人物」です。この設定だったら、白羽さんを主人公にした方がエンタメ的には面白い作品が描けそうです。読者からの共感度合いも白羽さんの方が高くなりそうな気もします。「同調圧力を乗り越える結末」でも「同調圧力に屈する結末」でも、それなりに面白そうなお話が作れそうな気がします。でも、この本の主人公は白羽さんではない。

というわけで、僕としては、この作品はかなり突き抜けたレベルで異常なモノであると思いました。個人的には、こういう作品は大好きです。皆様も「自分の世界を広げたいとき」などに読まれてみると、よいのではないでしょうか。

以上です。

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