山頭火さんは、山口県三隅宗頭を旅しています。現在の山口県長門市です。
初夏の水たたへてゐる
この年の立夏は5月6日ですから、暦の上では夏です。
16日ともなれば、確かに初夏の陽気でしょう。
この日の山頭火さんの日記には、『犬養首相暗殺のニュースをきかされた。』とあります。
前日が、五・一五事件の日ですね。
『きかされた』とありますから、新聞を見たのではなく、この頃は、テレビもまだありませんから、人から教えてもらったか、ラジオで聞いたかでしょう。
昔の私を振り返ると、旅の途中では、日々のニュースから遠ざかることが常でした。
世の中で起こっていることへの関心が無くなっていき、長い旅なら、軽めの浦島太郎です。
あくまで私の感覚ですが、旅の人には、そんな様子の人が結構多かったと思います。
今はスマホがありますから、旅の途中にも、ニュースなど、いろんな情報に触れているのでしょうか。
そういった事から離れられるのが、旅のいいところの一つだと思うのですが。
私が旅していた頃は、スマホありませんし、新聞をわざわざ手に入れたりしないので、情報は、山頭火さんのように、人伝かラジオぐらいです。
小さなラジオが、私の旅の装備のひとつでした。
一日の終わりに、小さな灯りの下、ラジオのスイッチをいれます。
ラジオを持っていくのは、楽しみのためではなく、おもに、次の日の気象予報を聞くためです。
天気次第では、行き先を変えたりもします。
海が荒れるという予報に、慌てて公衆電話を探し、船会社に運行状況を確かめたこともありました。
今ならスマホで、気象全般、天気から風の方向、船の運行状況まですべて、その場でわかります。
公衆電話を探す必要もありませんね。
そんな旅の途中でも、ラジオで気象予報以外の番組を聴いたことがあります。
ある年の大晦日、凍えるような海辺のキャンプ場でした。
今思い出しても、ちょっと寒気が蘇りますね。
大晦日に、人気のないキャンプ場で、ひとりテントの中。
寒いし、少し淋しい気持ちになっていたのかもしれません。
人の声を聞きたくなって、ラジオのスイッチを入れたのだと思います。
流れてきたのは、紅白歌合戦。
ちなみに紅白歌合戦、ラジオでもやってるんです。知ってますか?
ラジオ放送だと、アナウンサーが、歌手の衣装も伝えたりしてくれるのですが、
この時は、これがさっぱりイメージできませんでした。
小林幸子いったいどんなことになっとるねん。
さっぱりわかりませんでしたよ。
山頭火さんも、旅に出ると、世間からずれていく傾向にあるようですから、旅の日記で、ニュースを記録しているのは、めずらしいと思います。
五・一五事件。のちに教科書で習うぐらいの大事件ですから。さすがに書き残したんでしょう。
また、小さなラジオを持って、旅に出ますか。
スマホがあれば十分ですね、雨雲レーダーとか驚くほど優秀ですし。
充電がちょっと心配ですけど。
ラジオから聴こえてきましたか、そうですか。
忘れたはずの歌ですか、ちがいますか。
明日も朝から雨ですか、そうですか。