【今日の山頭火さん】第37回:2月23日の山頭火さん

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February 23,2023 #37 89 years ago 2月23日の巻 枯葦に汐みちてくる何んにもゐない
『今日の山頭火さん』第37回で利用する画像です
2月23日の山頭火さん

山頭火さん、2月19日から旅に出ています。

23日は、北九州市の戸畑漁港に行ったようです。

枯葦に汐みちてくる何にもゐない

現在の戸畑漁港の様子をネットで調べてみました。

葦の茂っているような場所は、予想していましたが、もうありません。

コンクリートで整備された漁港になっています。

万葉集にこんな歌があります。

『若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る 山部赤人』

訳としては、若の浦に潮が満ちてきたら、干潟が無くなるので、葦の生えてる岸辺に向かって、鶴が鳴きながら飛んで渡っていく。という風景を詠んだ歌だそうです。

山部赤人さんは、自然を美しく歌う(ざっくりすぎますけど)叙景歌で有名です。

残した歌から、諸国を旅した人だろうとも推察されています。

歌人と俳人という違いはありますが、山頭火さんに通じるところを感じます。

どちらも、自然や時間を言葉で切り取る人ですから。

葦が生えているところに、潮が満ちてくる。この情景。

平安時代の人だろうが、昭和の人だろうが、詠人にとっては、何か掻き立てられて、何か詠まずにはいられない、そんな情景なんですかね。

若の浦、今の和歌山県、和歌の浦。

こちらも、ネット検索してみましたが、やはり、葦は消えているようです。

全国的にも、葦が生えている場所はずいぶん減っているようです。

平安時代から1000年以上経て、昭和まであった葦の水辺の風景が、山頭火さんがこの句を詠んでから、たった89年後の令和では、気軽に見られなくなってきているんですね。

葦に関する、歌や俳句が詠まれなくなる日も近いですかね。

パンダが中国に帰ったそうです。

パンダ好きというわけでは無いんですが、見られなくなったと聞くと、一度ぐらい見ときゃよかったな、と思ったりします。

失ってから気付いても遅い。

歌でも、小説でも、漫画でも、映画でも、ドラマでも、ニュースでも、飲み屋でたまたま隣になった人も、ネットのなかの人も、ありとあらゆるところで、ありとあらゆる表現で、繰り返し教えさとす、使い古された言葉です。

しかし、この言葉、人類で一番蔑ろにされている言葉かもしれないと思っています。

葦の水辺、見といた方がいいですかね。

今すぐじゃなくても大丈夫か。

多分、すぐ忘れるんですけどね。

パンダも葦の水辺も、あの人の声も。

失ってから気づいても遅い。が、蔑ろにされている理由は、多分このあたりですかね。

気づいたら、何にもないです。

潮時ですか、そうですか。

いい機会ですね。

心残りありませんか。どうですか。

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